2月が来る。
 つい一ヶ月前まで街は正月気分で盛り上がっていたが、今では落ち着いている。
 しかし、十三の気分は明るくもなければ暗くもなかった。
 まさに無。
 そのものだった。

「もし、自殺するというのなら私が貴方を殺します」

 美穂にそう言われたこともショックであったしその意味を知り現実を知った。
 美穂はこの言葉の後にこう付け足した。

「そうしたら、私は人殺しの罪で逮捕されちゃうけどね」

 皮肉たっぷりだったが、何故かその言葉がずっしりと心に残った。
 そして、気づいた。
 自分が死ねばこの女の子は傷つくんだなと……
 美穂は、朝一番に見舞いに来た。

「まだ死にたい?」

「わかんない」

 美穂の問いに十三は、首を横に振った。

「そう……」

「美穂はどうなのさ?」

「え?」

「美穂も自殺したよね?
 美穂も死にたいと思っているの?」

「私のことは気にしないで……
 貴方は貴方の心配をしてて。
 私は、仕事に行くけどその間に自殺したらダメだからね!」

 美穂は、そう言って十三のおでこにキスをした。

「え?」

 十三は、その行動に少し驚いた。

「なに?」

 美穂は首を傾げる。

「美穂ってそんなキャラだっけ?」

「キャラ?」

「いや、なんでもない。
 仕事、頑張ってね」

 十三が、そう言うと美穂は小さく笑った。

「ありがとう。
 じゃ、行ってくるね」

 美穂は、そう言って十三の病室を出ようとした。
 すると女の看護師とすれ違う。
 看護師が会釈すると美穂も会釈を交わした。
 美穂は、十三の方を見ると手を振った。
 十三も小さく手を振り返すと美穂は安堵の笑みを浮かべながら部屋を出た。

「彼女さんですか?」

 看護師がそう言うと十三が苦笑いを浮かべる。

「いえ、同居人です。
 彼女なんて言ったら美穂に殴られます」

「あの方が、殴るですか?」

「はい。
 手が早いんですよ」

「そうなのですか?
 でも、あの子泣いていましたよ。
 もうバカなことは考えないでくださいね」

 看護師は、ニッコリと笑い点滴を十三に打つとそのまま病室をでた。
 このときになって十三はふと思った。
 今自分がいる部屋が個室だということに。
 そして次なる恐怖が来る。
 病院代どうしよう?
 考えても仕方がないことなので十三は、寝ることにした。