でも雪華は病人とは思えない程に脚が速くて、俺じゃ追いつけない。
周りを歩く人の波が邪魔で、気が付けば見失っていた。
息切れする俺には周りの人の声よりも、時刻を報せる駅の放送よりも、噴水の音だけがハッキリと聴こえる。
左手で抱えていたコートが地面にパサリと落ちた。
駅前の木に飾り付けられた電球が光り出して、もう辺りが暗いことに気付く。
なんなんだよ、あいつ…。
いきなり現れて、いきなり消えて。
あんだけかわいくないことばっか言ってたくせに、なんで最後にあんな顔すんだよ…。
最後に見た顔は笑ってるようで、どこか悲しげだった。
なぁ…雪華。
唇を離してすぐの口パクでの“サヨナラ”はなんだよ。
そんなの、もう会えないみたいじゃんか。
お前の存在まで嘘になっちゃうじゃんか。
なぁ…雪華。
お前だけは嘘じゃないよな?
雨は激しさを増していき、体に当たると冷たくて痛い。
気が付けば俺はずぶ濡れで、雨の中を家に向かって歩いてた。
かわいくないと思ってたハズなのに…。
だから頬を伝ってるこれは、涙なんかじゃない。