もう一度深呼吸する。

次に思い浮かべたのは、何故か修内太の事だった。

…どうして彼の事など思い浮かべるのだろう。

今更考えたところで仕方のない事なのに。

…わかっているのだ。

修内太と知り合い、何度か魔道絡みのトラブルに遭遇はした。

しかし、彼と過ごした数週間。

…意外な事にその数週間は、私の数百年にわたる長い人生の中で、確実に楽しいと思える期間だったのだ。

その楽しみを、喜びを私に与えてくれたのは、紛れもなく彼…宮川修内太であった。

私がこの世の中で最も忌み嫌う人間が、私が楽しいと思える時間を提供してくれた。

密度の薄い、死んでいるように生きている数百年の灰色の人生に、突然鮮やかな記憶と密度の濃い時間を与えてくれた修内太。

人間と魔女。

いずれは別離が来る事はわかっていた。

だがその別離が、これまで私が遭遇してきた人間達と同じように、忌み嫌われた末の別離であった事。

私はそれが…認めよう、悲しかったのだ。

他の誰に罵られても穢れ扱いされても構わない。

でも修内太だけには…『魔女』としての扱いは受けたくなかったのかもしれない。

彼に対して、私がどういう感情を持っていたのかは自分でもわからない。

ただ、彼が私の日常からいなくなる事は、大きな損失に思えてならなかった。