魔女の瞳Ⅱ

聖油で受けた火傷は、瞬時にして『再生』の魔術で治癒される。

それには見向きもせず、クリスは聖油を指先につけて、右手の甲に何かを書いた。

それは、エクソシストのみが使う祓魔の印。

知らぬ者にはただの奇妙な記号にしか見えないその印には、様々な意味が持たされている。

クリスが右手の甲に聖油で書いたのは、『剣』を意味する印。

その印を書き込んだ右手を手刀の形にして、私に振り下ろした途端。

「!」

手刀のかすめた頬に、赤い血の筋が流れた。

…聖油と祓魔の印。

この二つを使う事で、エクソシストは魔力を持たずとも『祓魔術』と呼ばれる特殊な術を行使する事が出来るのだ。

「さぁ覚悟しろ四門メグ。今日こそ悪名高きデッドゲイトの魔女を排除してくれる」

剣と化した手刀を構え、クリスは私にジリジリと近づいてくる。

…しかし、私に動揺はなかった。

ここまでの手の内は、以前彼と一戦交えた時に確認済みだ。

祓魔術は厄介な術ではあるものの、デッドゲイトの魔術に比べれば児戯に等しい。

私は軽く目を閉じ。

「眼鏡をかけ始めたのね…お勉強のしすぎかしら?坊や」

カッと見開く。

その瞬間、私の右目は金色の光を宿し、蛇の如き縦長い瞳孔に変貌した。

デッドゲイトの魔女の代名詞、呪眼。

そして。

「また出直してらっしゃい」

私は『睡魔』の魔術を呪文の詠唱もなく、呪眼の効果だけでクリスに叩きつける!

これで決着がつく。

…その筈だった。