この症状は、霧にやられた者の典型的なものだ。それも、末期の…。

セレイアは血の気が引き、目の前が真っ暗になった。

こうなってしまった者の行く末は、行く末は…

恐ろしくて、セレイアは悲鳴をあげそうになった。

だが、声は出ない。正確な技で突き出された槍を、本能的にかわすので精一杯だった。

今までヴァルクスと過ごした時間に、確かに調子が悪そうだなと感じることはあった。だがまさか、霧にやられていたなど…!

熱い痛みとともに切っ先が頬や腕をかすめ、血が飛び散る。

しかしセレイアには反撃できない。

どうしてヴァルクス相手に反撃できよう。

しかしいつまでもこうしていては護衛たちに気づかれてしまう。

犯人がヴァルクスだったと…それだけは避けねば。

「ヴァルクス! 正気に戻って! 
今は逃げて! お願い!」

セレイアが叫ぶと、ヴァルクスがうっと呻いて槍を取り落した。

「セレ…イア?」

「ヴァルクス! 正気に戻ったの!?」

「セレイア…だめだ、もうだめ、なんだ…。
俺は間もなく、霧の魔力にすべてを支配されてしまう。
そうなった者の末路は、知っている、だろう…?
無差別に人に襲い掛かる、殺人鬼だ」

「そんな…そんな…何か方法があるはずよ、だから今は逃げて―」

「だめだ。民を守りたいと、誓っただろう。
これ以上俺が罪を犯す前に…
お前の手で、殺してくれ…!!」

「―――――!!」