そして…

狂った唸りのような声をあげて、犯人はセレイアに襲い掛かってきた。

外套のフードを深くおろした姿のため、顔が判別できない。

しかし黒髪の若い男だということはわかった。

セレイアは槍を構え、犯人と刃を交えたのだが―

(え……?)

それだけでセレイアにはわかってしまった。

その槍の構えとなぎはらう動作の癖。

もう何年も共に鍛えてきたのだから、体が覚えていた。

相変わらず顔が見えない。

だが間違いない!

「ヴァルクス…?」

名を呼ぶと、彼はぴくりと反応し、たじろいだように動きを止めた。

「ヴァルクス、こんなところで何してるの、冗談はよしてよ」

この声は、遠くに取り巻いて様子を見ている護衛たちには聞こえていなかっただろう。

「うぅぅ―――!!」

唸り声をあげ、再び襲いかかってくる犯人。

月明かりで、横顔が見えた。

(やっぱり! ヴァルクス! でもなんで、まさか、まさか…!)

霧に、やられてしまったのか!?