運命の歯車が狂ったのは、そう…一年半前のことだった。


セレイアとヴァルクスの二人は、トリステアの東の端、辺境の村ブールを訪れた。

そこで最近、紫ではなく謎の黒い霧が出て、何人も犠牲になっているとの報告があったためだ。

セレイアが浄化の力で人々を助けたいと言い張り、ヴァルクスは最初反対したが、結局彼が護衛に着くことを条件に折れた。

そこが辺境であろうとなんだろうと、民を守りたい気持ちは、ヴァルクスも一緒だったのだろう。

セレイアには今となってもわからない。

それが間違いだったのかどうか。

村に噂の黒い霧がたちこめたのは、到着した日の夕刻だった。

風車をまわし、ゴーグルを身に着け二人は人命救助に走った。用意してきた大量のゴーグルを配り、風上の屋内に避難誘導する。

事は順調に進んでいた。

しかしその時、逃げ遅れ泣きながらすがりついてくる子供を発見した。

ゴーグルはすでに配り終えてしまっていて、その子を守るものがない状態だった。

ヴァルクスが自分の身に着けたゴーグルを渡すのを、どうしてセレイアに止められたろう。

止めるべきだったのか。

わからない。

普通の紫の霧であれば、多少吸ってもすぐに浄化すれば問題はなかった。

だから判断を誤った。

すぐに二人も逃げるべきだったのに。

二人はしばし霧の中にとどまって、避難誘導を終えた。

霧が去ると、セレイアは人々に浄化の儀式を行った。

もちろんヴァルクスにも。

わからなかったのだ。

それだけでは不十分であったことが。

そして……悲劇は起こった。