ヴァルクスの言葉の意味を考えていた。

口づけの意味を考えていた。

思い出すだけで赤面してしまい、大巫女に叱られても上の空だった。

そうやってヴァルクスのことばかり考えて過ごすうち、やっと鈍いセレイアにもわかってきた。自分の気持ちが。

わかったら、いてもたってもいられず、セレイアはヴァルクスの部屋を訪れた。

部屋に招き入れるその姿を見ただけで、気配を感じただけで、心臓の鼓動がどきどきとうるさかった。

「…わかっている。告白の返事をしにきたんだろ。
俺だってわかってるんだ。王族の婚姻に愛など関係ないことくらい。
だからお前がもし俺を嫌っても…婚約を解消することはできないから、その時は愛人でもなんでもつくれば―」

「ちょっと待って」

ヴァルクスが卑屈な声を出したので、セレイアはそれを遮った。

「ヴァルクスは…私の気持ちは知りたくないの?」

セレイアはまっすぐにヴァルクスの目を見つめて尋ねた。

「…え?」

「私が先に言いたかったわ。あなたに先を越されちゃ、負けたみたいじゃない」

「………」

「好きよ。私もヴァルクスが好き」

ヴァルクスがきれいな瞳を見張ってまじまじとセレイアをみつめた。

そして不意に。

「―――セレイア!」

満面の笑みで、ヴァルクスはセレイアを両手で抱き上げた。

そしてそのままくるくると回る。セレイアの顔も自然とほころんだ。

二人は婚約から9年の歳月を経てやっと、恋人同士となったのだった。