「うわあ、ありがとう!」

手を取ってセレイアが満面の笑みを見せると、少年はちょっと照れくさそうにそっぽを向いた。

「でも、いいの? あなたも一緒に逃げちゃって。
みんなが心配するんじゃないの? …親御さんとか」

「別に。いいんだ、俺も逃げ出したいところだったから」

「じゃあ、一緒に、行こう!」

そうして二人は婚約披露宴を抜け出したのだった。

もちろん、目立つ二人だ、すぐに見回りの兵に見つかって連れ戻されてしまった。

二人はハルキュオネと国王の見守る中で、再び引きあわされることとなった。

「ちゃんと名乗りなさい」

「なんで俺がこいつに…いてっ」

国王陛下にごつんと頭を殴られて涙目になった少年は、しぶしぶと名乗ってくれた。

「俺は、ヴァルクス・ダイド・ディアラート。この国の王太子だ」

それは彼女の婚約者の名前だった。

「あなたが?」

ハルキュオネに睨まれ、セレイアも名乗る。

「私はセレイア。姫巫女のセレイア・リュピナス」

「お前が?」

二人は互いの目に、それぞれの驚き顔を映して…そしてどちらからともなく笑った。

―この人と、婚約するんだ。

婚約というのが何をするのかいまいちよくわからないけれど、この男の子が相手ならそう悪くないかも、とセレイアは思った。

ちょっとエラそうだけど、すごく優しいところがある人だから。

これが二人の、出会いだった。