「本日は王太子殿下がお忍びで王宮に戻っておられるため、会いに行くとのことで、セレイア様は先ほどお出かけになりました」

ある休日、セレイアの姿が見えないので使用人頭に尋ねると、そんな返答が返ってきた。

ディセルはそれを聞き、気を引き締める。

いよいよこの時が来たのだとディセルは思った。

―いよいよ、ヴァルクス王太子に会う時が。

ディセルは王宮に向かい出発した。

その日は雪の多い日で、昨晩から降り続いた雪が腰まで埋まってしまいそうなほど積もっていた。今も道にはせっせと除雪に励む人々が見える。

セレイアは今朝、どんな気持ちでこの道を歩いたのだろうか。

愛する人に会える喜びを胸に? それとも…。

やがて姿を現した王宮は、大部分がわずかな光も逃さず七色に輝く特殊ガラスでできた、美しい建造物だった。

威風堂々というより、繊細で女性的といった表現が正しいだろう。

主殿の規模だけで白銀の神殿全体と同等か、それ以上の規模に見えると言うのに、まったく圧迫感がない。「透き通った白鳥」の異名も頷ける。

しかし今は王宮の美しさに見とれている場合ではない。

見上げる高さの正門にずらりと二列に並んだ衛兵たち。

彼らをかわさなければ、ヴァルクスとセレイアのいるところまで行けないのだから。