麗雪神話~麗雪の夜の出会い~

“それは切ない物語

 それは儚い物語

 この人間界に舞い降りた

 雪の精霊の物語…”


はっと、セレイアは息をのんだ。

言語が違う。

これは…古代トリステア語ではないか。

相当古い時代に栄えた言語だ。古典の中でしか見かけることがない。この場でこれを聞き取れるのは、姫巫女として多言語を学んできたセレイアしかいないに違いない。

それに雪の精霊の物語…今このタイミングでその内容は、果たして偶然であろうか。

他の人々とは違う意味で、セレイアは歌に聞き入った。

歌の内容はこうだ。

雪の神スノーティアスの怒りを買った精霊の青年が、天上界を追放され、人間の姿にされて、人間界をさまよう。

そこで彼は美しい娘と恋に落ちる。

彼は精霊であることを捨てて、一人の人間として、彼女と添い遂げようと決心したのだが、それに嫉妬したスノーティアスが、精霊の青年を無理やり天上界に返してしまう。

二人は離れ離れとなり、願いは叶わない…。

悲恋である。

だが悲恋がどうこういうよりもまず、その内容がこの国ではありえない。

雪の神スノーティアスはトリステアの唯一神。誰もが彼を崇めている。その彼を悪役に据えた物語など、ありえないのだ。

おそらく、他の国で歌われている類のものなのだろう。

不敬ともとれる歌を堂々と歌ってのけた吟遊詩人を、セレイアは穴の開くほどみつめた。

余裕の表情の吟遊詩人。その目が挑戦的にセレイアをみつめる。

まっすぐ、何かに挑むように、セレイアだけを。

何か…危険なにおいがする。