―“霧”。

数十年ほど前から突然現れ、人々を苦しめてきた謎の霧。

少し吸っただけであれば、神官や巫女の持つ浄化の儀式で、対応できる。しかし吸いすぎれば、あまりにも強い毒となる。あらゆる病気を発症するのだ。そうなっては手の施しようがない。

そして末期になると、霧に想念を操られる。操られた人は、もう隔離するしかない。ひどい場合は殺すしかないこともある。

危険な霧だ。

霧がどうして現れ、どうすれば消せるか、人々は何十年にもわたって研究してきたが、いまだにはかばかしい成果はあがっていない。

風車が発明されたのは、先々代の姫巫女セリーンの代だ。

それまではなすすべもなく、トリステアの滅亡もささやかれたほど霧が勢力を持っていたのだから、風車の登場で状況はだいぶ良くなったといえる。

しかし近年、セレイアの代になると、風車でも対応しきれない霧が増えてきた。

風車の風の届きにくい人々の賑わう街の中心で突然、それも頻繁に起こるようになってきたのだ。

小ぶりの風車を中心に建設するなどして対応しているが、それでも犠牲者は出る。

「…私のせいかも知れないわ」

霧の説明をしたあと、ぽつりとセレイアが呟いた一言に、ディセルは目を見張った。