「いいえ! 一人で勝手に行ってごめんなさい。一緒に、戦ってくれる…?」

「もちろんだ」

ディセルがセレイアの手をとり、立ち上がらせてくれる。

足は痛んだが、体重を片足と彼にかけているのでなんとか立っていられた。

二人が改めて甲虫たちに向き合うと、まるでそれがわかっているかのように、分身たちが一か所に集まりはじめた。

そしてみるみるうちにその質量が増し、巨大化していく。

息をのむ二人の前に、毒の霧の虫はその真の姿を現した。

それはまさに、二人が当初覚悟していた怪物の姿であった。

木々をなぎ倒す黒々とした巨躯。二人の二倍の高さ、四倍の横幅を持つ。その羽ばたきと共に響き渡る大音響の羽音は、思わず耳を覆いたくなるほどだ。

これが……毒の霧の姿。

「これなら攻撃が当たりやすいわ!」

セレイアは無事な右足をついて身を乗り出し、槍を構えて突進した。

が、確かに甲虫の体を貫いたはずの槍に、やはり手応えがまったくない。

「…うそ!? どういうこと!?」

隣のディセルが険しい表情で言った。

「…やっぱりそうか。
セレイア、きっとこれは見せかけの大きさなんだ。
確かに巨大化したように見えるけど、きっと攻撃が通じる“本物”はさっきの虫の大きさ分しかない。それを探さないと…」

「でも、どうやって…!?」

「俺が、やってみる」

「どうするの!?」