(よくも…よくもヴァルクスを…!!)

いつの間にか泣きながら、セレイアは甲虫を追いかけて走っていた。

今追いかけているのは同じ方向に逃げた三体。その中に本物がいるかどうかはわからないが、セレイアはがむしゃらに追いかける。

甲虫が一斉に“粘液”のようなものを飛ばしてきた。

その“粘液”は空気に触れるやいなや固まり、刃のように鋭くとがってセレイアを襲う。

「くっ……」

いくつか避けきれず、セレイアは体のあちこちに裂傷を負った。

「幻のくせに、粘液だけは本物なのね…!」

悪態をつきたくもなる。

けれどセレイアは立ち止まらなかった。

大きく踏み込み、甲虫の一体と同じ高さまで捨て身で跳び上がる。

そして槍を水平に突きだした。

槍は見事に甲虫をとらえる!

しかし―

やはりと言うべきか、手ごたえがまるでなかった。

幻の一体が消えていくのを視界にとらえながら、セレイアは前につんのめる形で地面に落下した。

受け身をとれず、下生えに突っ込む。

体のあちこちに鋭い痛みが走った。わずかな裂傷など気にしないが、足首に痛烈な痛みがあり、嫌な予感がした。

すぐさま立ち上がろうとしたが、びりっと稲妻に打たれたような痛みが左足首に走り、うずくまる。

どうやら足を痛めてしまったようだ。