想いを込めてみつめる視線の先、セレイアはディセルに倣い、頭上を見上げている。

「私も…好きよ。この世界で、みんなの幸せが、紡がれていってほしいと思うの。現実は…幸せなことばかりじゃないって、知ってても」

そう言ったセレイアの瞳が陰る。睫毛の影で、瞳が濃い青に変わる。

その瞳には、いつも明るい空の青が似合う。

ディセルは大きく森の空気を吸い込むと、自然と自分の胸の内からわき起こってきた言葉を伝えた。

「世界をごらん。幸せなことばかりじゃない。
動物たちには天敵がいるし、どんなきれいな植物もいつかは枯れる。
辛いことは、怖いことは、特別なことじゃないんだ。それも全部ひっくるめて、世界は自然であり、均衡を保っているんだ。
だから辛いことを撲滅しようとしなくていい。それで自然だから。それを受け入れて、自然に任せていければそれでいい…どんなに辛い思いをしても、それで自然や自分の価値が下がるなんてことはないんだ」

「自然…かあ…」

セレイアは真剣に考え込むような目になった。

ディセルの言葉を頭の中で噛み砕いてみているのだろう。

彼女はやがて空色の瞳を取り戻して笑った。

「なんだか、神様の言葉みたい」

「…そうかな?」

「精霊様の言葉ね。うん…辛くっていいのよね。励ましてくれて…ありがとう。ディセルがいてくれて、よかった」

ぽつりとつぶやかれた最後の一言に、ディセルは胸が熱くなった。

少し心の距離が近づいた気がするのは…ひとりよがりの勘違い、だろうか?