トリステア東の辺境の村、ブール。

そこは、プミラの翼で王都から約二日のところにある、これといって特産もない静かな村だった。

辺境であるため気候は王都より幾分よい。

だから温室を使わなくても、民は羊や牛を飼い、糸をつむいだりチーズをつくったりして生計を立てている。

しかし穏やかな村が王都より常に霧の脅威にさらされていることは、周知の事実だった。

「霧が流れてくる森があるんでさあ。
東の、国境近くになぁ。
深い森で、風車もなく、危険だってんで、誰も入ろうとする者はおらんのですがな」

姫巫女の突然の来訪を歓迎してくれた村長の家の居間で、セレイアたちは話を聞いていた。

ディセルを予言の神人だと紹介すると、皆彼にも丁寧に接してくれた。

「ディセル様は、霧に実体を持たせることのできる、稀有な力を持った神人さまです。
私が彼と共に森に入り、毒の霧のもとを絶ってきます」

セレイアがそう宣言すると、村長以下集まっていた村人たちは異口同音に反対した。