二度、三度とセレイアに攻撃を防がれた甲虫は、いったん下がり、屋敷の天井近くまで飛んでから、一気に勢いをつけて急降下してきた。

そのままの勢いでセレイアを切り裂こうと言うのだろう。

「姫巫女様! 危ない!」

不意にクレメントの叫びが聞こえ、何かがディセルの目の前をかすめていった。

花瓶だ。

それは急降下してきた甲虫に命中し、わずかに甲虫の軌道が逸れ、セレイアは間一髪攻撃をかわすことができたようだ。

クレメントも一緒に、戦ってくれているのだと思った。

そう思うと勇気がわいてくる。おそらくセレイアにとってもそうだったろう。

セレイアは眼差しを鋭くし、力強く跳び上がった。

その勢いで槍を横に薙ぎ払い、甲虫に攻撃する。

―当たった!

が、紫色の体液がわずかに出ただけで、致命傷には至っていないようだった。

怒った甲虫はギシギシときしるような声を出し、階段の上に着地したセレイアを執拗に狙う。

今度は白くてねばねばとした粘液のようなものをセレイアに吐きかけた。

セレイアの反射神経がずば抜けていて、攻撃をかわしてしまうことを学習したのだろう。

粘液をかわしきれなかったセレイアは、足を地面にくっつけられ、その場から動くことができなくなってしまったようだ。