「な、なに…どういうこと…ディセル!?」

セレイアがこちらに気づき、身を起こす。

どういうことか、正確にはディセルにもわからない。だが本能的に、わかることがあった。

カタチない霧を、見事カタチにすることができたのだと。

だがまだ終わったわけではない。

この虫を倒さなければ。

そしてそれができるのは、きっと自分ではない。

「セレイア! 霧はこいつだ! 俺が形を持たせた! どうかこいつを倒して!」

叫ぶや否や、甲虫が羽を広げてディセルに襲い掛かってきた。

両の前足が刃のように鋭くなっており、腕をわずかにかすめただけで鮮血が飛び散る。

「ディセル!!」

呆然としていたセレイアが我に返ったようで、こちらに駆けてきた。

廊下を走り抜けざま手近な壁の飾り槍を手にしている。

甲虫は羽を広げ、素早く動いて、今度は狙いを駆けてくるセレイアに定めた。

振り下ろされる前足の刃に、セレイアは槍を素早く横に構えて応戦している。

ディセルは甲虫を凍らせて足止めしようと意識を集中するが、甲虫の動きが素早すぎてままならなかった。