ディセルが三人のもとに駆け付けた時、セレイアはフリムとクレメントを抱きしめて泣いていた。

その涙が、彼女の絶望が、ディセルの心を激しく揺さぶった。

そして…心の底から、彼の中に沸き起こってきたのは…怒りという感情だった。

―これ以上彼女の心を傷つけることは、相手がなんだろうと許さない。

ディセルの目が据わる。

忌々しい霧を映すその瞳に、強い力が宿る。

風で流す以外戦うすべがない、霧と言う魔性。

それをなんとかできないものか。

いや、してみせる。

自分はきっと“精霊”だから…できるはずだ!

「霧よ……形となれ!」

強い想いで彼が念じると、ぎゅん、と圧縮されるように空気が動いた。

霧がどんどん集まってくる…そして収縮する。

「何!?」

異常を察したセレイアの叫びと同時に、ふわあっと霧が消えた。

そしてかわりに、ディセルの目の前に、ひとかかえはありそうな巨大な紫色の甲虫が現れていた。