「フリム! クレメント!」

広い客間に飛び込むと、二人はすでに濃くたちこめる霧にむせていた。

「セレイア様! なぜゴーグルをなさっていないのです!?」

開口一番セレイアの心配をするフリムの姿に、セレイアは胸が熱くなった。

大切だと、そう思った。

「あなたたちこそ! 風車が故障しているの、急いでここを離れるのよ!」

「姫巫女様! この服を口元に巻きつけてください!」

クレメントが上着を脱ぎ、有無を言わさずセレイアの口元に巻きつける。

人が人を想うあたたかな心を感じて、涙が浮かびそうになった。

悲しい涙ではない、不思議な涙。

二人を連れ、セレイアは外へと向かった。

しかし、霧があまりにも濃くたちこめているため、ゴーグルもなく口元を覆う布もないフリムとクレメントはうまく呼吸ができずに、吹き抜けの階段踊り場で、うずくまることになってしまった。

「しっかりして! フリム、クレメント!!」

青ざめたセレイアの叫びに、フリムは「大丈夫」と笑顔を見せた。

「セレイア様は私が守ります、命にかえても」

「僕だって! さあ姫巫女様、フリムの頭巾も口に巻いたから、これでしばらくは大丈夫。僕たちを置いて行ってください」

「そんなことできるわけないじゃない!」

二人が浮かべた笑みが、ヴァルクスが最後に浮かべた笑みと重なった。

今度は悲しい涙、絶望の涙がセレイアにこみあげてきた。

また、大切な人を失うのか。

もう誰も、失いたくないのに…!

守りたいのに…!!

セレイアはぎゅっと二人の頭を胸に抱きしめ、二人ができるだけ霧を吸わないように、守ろうとした。そんなことで守れないことはわかっていても、やらずにいられなかった。