『なっちゃん、酒どーするん』

店の表から徹平(てっぺい)の声がした。
20になる、隣の街に住む酒を造るおところの長男だ。

背は高く、ガタイがいい。
百姓の娘に人気な青年。
 
『最近売れが悪いから・・・。』

『こんかい。男の目当ては、お前かい』

『はぁ。。。まあ、そうな』

頭の後ろをかいた。なんだかバツが悪い。
『最近雨もすごいな。』
『そうね。畑が、泥になるわね』

徹平とはつまらない話しをしても、心が安らいだ。
5つの時からここに来て、那津子の話し相手になっていた。
『徹平さん、そろそろ所帯持つ歳でしょう』

『んな、このご時世、酒も売れない。原爆が落とされて、そりゃ数え切れんほどの人さが死んだ。
お江戸も焼け野原になって、こっちに疎開してくる女子供が山ほどいる。男はみんな、死んじまった。そんな農家がいないこんな時に、米がないこの時に、米で酒を作っていいのか。
俺は、なにがしたいのか分からない。』

苦笑い。そんな笑みを見せて徹平は言った。