那津子もその一人だった。
16になる酒屋の娘だ。
酒屋と言っても決して裕福だったわけではなかったが、顔立ちや容姿は村一番美しかった。
戦後10年ほどしかたっておらず、酒を買うのはごくわずかな金持ちだけだった。
 神田家の次女に生まれた那津子(なつこ)は、病気で弱る姉と両親と四人で、酒屋の裏の畑の隅にある土壁の家に住んでいる。
 酒では生計が立てられず、野菜を市場に売りに行き、やっと生きていた、という感じのものだった。
主にじゃがいもや、さつまいも。金目にならない野菜を売っては姉の薬に当てていた。