「うっわぁ…」
美香は自分の腹部を見て声をあげた。
「時間が無いんだから文句言うな」
「雑」
「当たり前だ」
文句有りげに見つめる美香を、最終的に直樹は無視した。
「でも何で右側ばっかりに張り付いてるのよ」
制服を捲りながら美香は尋ねた。
「美香は基本後から呼ばれたり、咄嗟の時は右を向くだろう」
「そうだっけ?」
「自分では意識していないだけだ」
美香の問いに答えながら、直樹は美香にカーディガンを手渡した。
「ちょっと寒っ」
「我慢しろ」
思わず漏れた美香の言葉に、直樹はきっぱりと言った。
「もうすぐだね」
美香の言葉に釣られ直樹は教室に備え付けられている時計へ目を向けた。
美香がこの為に部活を三十分前に抜け出し稼いだ時間。
その時間はほぼ使い果たした。
「死ぬなよ」
「そうならないように祈っといて」
強気な美香にとっては弱気な台詞だった。

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