「ちゃ、ちゃんと、前を見て運転してください」
その視線に耐えられなくて、再び窓に視線を移した。

そんな私が可笑しいのか、保田さんはクスッと笑った。

…いつしか車は、私のアパートの前。

名残惜しいと思うが、降りないわけにはいかない。


「ありがとうございました・・・それじゃあ」
「佐々木」

「・・・」
車を降りようとした私の手を、保田さんが握りしめた。
私は言葉がでなくて、ただ保田さんに背を向けたまま止まった。

「もう少し、一緒にいたい」
「…言ってくれたら」

「・・・何を?」
「嘘でもいいから・・・好きだって、保田さんの口から聞きたい」

「・・・」
私の言葉に、保田さんは黙り込んだ。

・・・やっぱ、言えないよね。
好きでもないのに、好きなんて。

「ウソ、冗談です・・・帰りますね」
「…好きだ」

「・・・え」
「俺は、佐々木が好きだ」

「・・・」
「だから、もう少し、傍にいてほしい」

「…嘘でも、嬉しいです」
嬉しいのに、涙が出た。

…嘘の言葉は、こんなにも切なくなるモノだって思わなかった。

「…泣くな…佐々木に涙は似合わない。

俺は、お前に笑っててほしい・・・」

優しく囁いて、私の瞼にそっとキスを落とした。