台所に戻り、また砂糖を少しずつ入れ始める。
 ホイッパーの抵抗が強くなってきて腕に力が入る。
 メレンゲに角が立つほどになってようやく私は一息つき、携帯電話に彼へのメールを打つ。

メリークリスマス

 それだけ打って送った。
 それからすぐに返信が来た。

 全く同じ内容のメールだった。
 何もせずそのまま返信しても同じなのに、きっと彼はもう一度打ち直したに違いない。
 彼もまた恥ずかしいほどにロマンチストだから。
 いや、彼の場合は職業病なのかもしれない。
 そして、私はそんな彼に影響を受けたのかもしれない。

 メレンゲの泡を潰さないように卵黄を混ぜ合わせ、湯銭にかけたバターを入れてまた少し混ぜる。
 紙を敷いた型に流し込み、オーブンに入れる。
 時間を計るために時計を見る。
 
 彼が丁度ソリに乗って月明かりに照らされる頃だ。

 クリスマスに彼と過ごす事が永遠になかったとしても、私は恵子たちと同じように彼とずっと一緒にいようと思っている。
 今年は彼にあの時の事をちゃんと謝ろう。


 今までそう思ったことはなかったから、お菓子作りのように来年に持ち越したりしないはずだ。