幸さんは、ゆっくりと立ちどこを見ているか分からないような虚ろな眼差しで私に一時視線を置いて微笑んだあと、扉の向こうへと歩いて行った。



「ありがとうございます。さぁ、あちらへ……」



看護婦さんは、ぺこぺこと頭を下げながら扉を閉めた。


扉の向こう側で遠退いていく二人分の足音が聞こえた気がした。


私は、腰の抜けた体を2人に手伝ってもらいながらよろよろと動かして、秀の近くによった。


遠目で見た以上に包帯とチューブ、それから機械の量が優より多いことに気が付いた。


ただ形だけで置いておく優と違って、ちゃんと生命を繋げようとされている秀には、それなりの対応をされてるんだ。


そう考えただけで涙が出て。


《あの時》の優と秀を思い出させた。