私のいる角度からは全然見えなかったけど、幸さんの顔はきっともう、無表情だったんだろう。


最悪の運命のシナリオの前に何も考えられずに感情も不安定で体がその状況についていけてなかったんだろう。


ただ、涙だけは止まらずに。



「…なるべく、傷の処置は行って綺麗な状態で待って頂こう、と院長は、言っておりました。」


「…………そう。優が決めたなら仕方ないわよね…。」


「…では、了解を得た、という形で院長に伝えてきます。」



看護婦さんは、立ち上がると涙を拭って回れ右をすると、駆け足で手術室に消えた。


シンと物音一つ無くなり、静まり返った廊下は居心地が悪い以外の何物でもなかった。


誰も、動こうとしなかった空気を打ち破ったのは淘だった。


あたしの前まで歩いてきたと思ったら、目にも止まらぬ速さで私の右頬を打った。