幸さんは、もう、動けなくなっていた。


きっと、かなり前に亡くなった、旦那さんの聡介《そうすけ》さんを思い出しているんだろう。


私もあんまり覚えていないけど、優しくて逞しくて、誰から見ても格好いい自慢のお父さんだと思っていたから。


でも、事業に失敗して自分の身を削ってまで幹部や使用人を助けようとしたせいで追い詰められて自殺、だったらしい。



「じゃあ、どうあがいても二人は助からないの…?」


「申し訳ございません。ですが、院長が身を挺して頑張っていますので御了承願います…。」



淘の問いに深く頭を下げながら、看護婦さんが言った。


幸さんは、自分よりも小さくなった看護婦さんを上から見下ろしながら小さくつぶやいた。



「優は……どうなるんですか?」


「こちらの医療ミスということで院長が辞職する覚悟です。」


「…違う。黙って痛みに耐えながら見殺しにされるのかって、聞いてるのよ…。」



その言葉に看護婦さんは、深々と下げていた頭を上げ幸さんを見上げた。