落ち着いた秀は、涙を拭きながら私に、ごめん、と言った。
聞こえないけど、十分なほどに気持ちが伝わってきていた。
『今日は、ごめん、帰って。』
稔ちゃんは、もう茫然と立ったままだったけど、私が秀の伝言を伝えるとこくりと頷いた。
帰り際に明日筆談用ノートを用意してくると伝えて、病室をあとにした。
稔ちゃんは、鍵を遊ばせて送ってく、と笑った。
私は、図々しく送ってもらうことにして、助手席に乗り込んだ。
運転席に乗り込む稔ちゃんの横顔は、20歳でもう大人なんだけど童顔のせいか同い年くらいに見えた。
「さ、帰ろっか。」
シートベルトを付けた後、身を乗り出すように涙を拭い、鼻を啜ると稔ちゃんは、笑っていった。


