近くて遠い。



「よし、これでOK。でも、結構深くまで刺さってたみたいだからチューブごと変えた方が良いかもしれない。まあ、一応補強はしといたから、明日にでも自転車屋行きな」


「ありがとう。助かったよ」


そう言って帰ろうと思い、自転車にまたがろうとすると、見覚えのないジュースポケットがハンドルの部分に付いている。


「涍、これって...」


「ああ、つけといた。なんつーか、いつも相談乗ってもらってるお礼?」


「そんな、お礼なんかいいのに。...わざわざありがとう」


「いえいえ、こちらこそ。あ、もう暗くなり始めてるし、送ってくわ。父さんに言ってくるからちょっと待ってて」


「え、いいって!まだそこまで暗くもないし!」


「いいから。大人しく待ってろよ」


そう言い走っていった。


涍がいない間、そのまままたがっているのもあらなので、自転車から降りることにした。


降りるときにも気になった、ジュースポケット。


そっと触れてみた。


なんともいえないこの温もりに、なぜか心がポカポカした。



「悪い、待たせた」



いつのまにか帰ってきていた涍にビクッとして、ジュースポケットから手を離した。



「ううん、全然」


「じゃあ、行くか」


涍は、歩いて通学しているようで、自転車を持ってないらしい。


自転車を押しながら、2人で歩いて帰った。


その間に会話はあんまりなくて、少し気まずかった。


10分くらい歩いて、家に着いた。


「今日はありがとう。助かったよ」


「別に俺が勝手にやったんだから、気にすんなよ。じゃーな」


そう言って涍は、あの笑顔をくれた。


なんか、この笑顔は凄く落ち着く。


そして、胸のあたりがポカポカするから、なんとなく好き。


そして涍は、私が家の中に入るまで見送ってくれた。


もうちょっと見ていたかったな、とか一瞬思ってしまい、とりあえずなんでやねんっと頭にチョップした。


中に入るなり母さんが


「おかえり。あら、涍くんもう帰っちゃったかしら?ご飯作りすぎたから食べてってもらおうかと思ってたんだけど...」


涍は歩きだったから、まだそんな遠くには行ってないはず。


「母さん、さっき別れたばっかだから呼んでくるよ!」


そう言って私は玄関を飛び出した。


「遊?!」


と呼ぶ母さんの声が聞こえた気がしたけど、気にしない。


さっき直してもらった自転車にまたがり、私は全力でこいだ。


何回か道を曲がって少し経ったところに、一人の男性があるいているのが見えた。


「涍!!」


ゆっくりと、その名前の主はこちらを振り返った。


「...遊?」


涍の顔はポカーンとしていて、その様子に私は吹き出しそうにもなったが、なんとかこらえて涍の隣に自転車を止めた。


「はぁ...はあ...」


全力で自転車、かなり疲れる...


「そんな急いで、どうかしたのか?」


「あ、あのっ!ご飯!食べてけって!母さんが!」


息が切れているため、途切れ途切れになってしまったが、なんとか伝わったと思う。


「ははっ」


わ、笑われてしまった。


「わざわざ息切らして...さんきゅーな」


そう言って、またあの笑顔。


「ちょっとその自転車貸してみ」


と涍に言われたので、なんとか息を整え、自転車を渡した。


すると涍はそれにまたがり、こっちを振り返って


「ここ、乗って」


と荷台をぽんぽんした。


数秒ぽかんとした私は


「えっ、いいよいいよ、私、重いし」


と返したが、


「大丈夫だって。ほら、早く」


と言われたので、仕方なく後ろに乗った。


「よし。このままお前んちまで飛ばすぞ!」


「え、ちょっ、はやっ、ぎゃーーー!落ちる落ちる!!」


「はははっ!!てか、大胆。」


急に発信した自転車に怯え、思わず涍の腰に抱きついてしまったことに今気づく。


「あ、ごめん!」


「いいよ、そのまんまで。ほら、まだまだ飛ばすぞ!」


「え、でも...ってうわっ!速いって!」


そのままずっと光速で走り続け、家に着いた時にはお互いへろへろだった。