「…ただいま」



部活を終え、気まずいことこの上ないが一応声を掛けて部屋に入る。

いつもと違う、真っ暗な部屋…。




「……」




電気を付けても、座敷わらしの姿はない。気配さえも。

無言で部屋に入れば、いつもより冷たく感じる部屋の床。




「座敷わらし…」




どんなに突き放しても

言い争っても

彼女を呼べばいつだって何事もなかったかのように、寧ろ嬉しそうな顔で返事をして姿をしたのに。


今だけはどんなに呼んでも現れない。




「居なく…なったのか?」




答えなどあるはずもない。

それがオレの鼓動を早くする。


何をこんなに焦る必要がある。

あの口うるさいお節介焼きが居なくなって寧ろ清々するはずなのに…。




「ねぇ…、本当に居ないの…?」




たかが女一人に動揺している自分が情けない。


声が震えている自分が…




「…くそッ」




鬱陶しいと感じることもあった。

肉親でも無いくせに馴れ馴れしく接するアイツに苛っと感じたこともあった。




『一樹くん!』




それでも…




『ねぇ、一樹くん!』

『何…?』

『今日何が食べたい?』

『何でも良い』

『じゃあトマト料理ね!』

『……』

『へへ、うっそー』

『ハァ…』




笑った顔が彼女に一番似合ってるなと…

いつもそう思っていた…。


いつの間にか当たり前になっていた彼女との生活。






「ただいまー…」

「…っ…!」




声のする方を見ると、大量の荷物が入った風呂敷を担いでいる座敷わらしが…。




「ごめーん、遅くなって!ちょっと妖怪の集まりがあって…」




いつもと何一つ変わらないヘラヘラした顔で、思わずズルっとなりそうな内容を淡々と言ってのける彼女。


流石アホ。

くそ…




「……」

「ごめんねー? お腹空いた? 直ぐ作るからちょっと待っ…」


――グイッ

「て……、って、え、ちょっ…」

「……」




むかつくむかつく…。


彼女に振り回されてしまう自分が。

思わずホッとしてしまった自分が。



思いっきり抱き締めてる自分が…。




「一樹く…」

「行くな…」

「へ?」

「何処にも…、行くな」

「一樹くん…」




この間先輩が言っていた。

名前のない妖怪は、名前を与えられるとその人を主人として一生側で仕えるのを本で読んだことがあると…。

ニヤニヤした顔で。




「ごめん、もう言わないから。傷付けたりしないから…」

「一樹くん…」

「ねぇ、名前…、付けても良い?」

「…!」




本当か嘘かは分からない。

というよりオレには関係のないことだと思っていた。


誰がこんな疫病神をって。


ギュッと…腕の力を込めた。




「か、一樹くん…ぐ、ぐるじい…」

「うるさい」




アホでおっちょこちょいで口うるさくて、取り柄と言ったら料理しかない。

ちっとも幸せなんか運ばない座敷わらしだけれど…




「…良いよ、一樹くん」




一生をかけてオレに幸せを運んでくれるなら、

十分に座敷わらしだろ。





きみの名前<了>



(どう? 気に入った?)

(うん。ありがとう…)




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