ワンコと私






「いらっしゃいま…って、またアンタか」

「またとは酷いねー。ちゃんと客として来てんのに」

「来るんならもっと早い時間に来れないわけ?こうも閉店ギリギリだと、ややこしくなるんだよ」



いつものように悪びれもせずに、閉店間際にきやがって…。こっちはもう上がる時間だってのに…



「で、今日も相手してくれるんでしょ?」

「…ハァ、ウザ…」



透のせいで、今日もまた帰りが遅くなる…。
「ちゃんと送って上げるから」と言ったのを合図に、透の向かい側の席に座った。









「――美希ちゃん、帰る前にちょっと寄り道しても良い?」



店から出るや否や、そう言ったかと思えば私の体を抱き上げる。

返事聞く気無いんなら、だったら初めから尋ねんなよとも思うけど、まぁ透はこういう人だし…。

大して抵抗もせず、大人しく透に体を預ける。


着いた場所は何もない所。とにかく何もない。有るとすれば目の前の大きな木一本。
は…?と思わず目が点になる。



「あー…、と。何?ここ」

「さぁ何でしょう」

「……」

「……」

「「……」」


いやいや、知らないし。
だって木しかないじゃん。



「この木ね、なかなか昼寝にはもってこいの場所でさ」

「は?アンタ昼寝してんの?」

「時間ある時は」

「へ、へぇ…」



そりゃ、空いた時間に何しようが人の勝手だけど昼寝って…。しかもこんな場所で?
仮にも忍者が、こんな分かりやすい場所でスヤスヤ寝てて良いのか?




「…それで何?この場所が一体何ていうわけ?」

「……よっこいしょ…」

「ちょっと、何いきなり寝てんのさ」



やだ、この人いきなり寝転んだんだけど。あっやしー!
若干冷たい目を向ける私に、気にする様子も無く透は言葉を続けた。



「オレ、いつもこんな感じで寝てるんだけど…」

「……」

「さぁ、寝ようかなーって時に落ちてきたのがお前」

「…!」

「咄嗟に避けちゃったから、美希ってば頭を地面に強打」

「………」



アホ!一歩間違えてたら死んでたわ、この野郎!!



「…通りで頭が痛かった訳だ」

「いやー、びっくりしたよ」

「今ピンピンしてるのが自分でも不思議だよ…」

「ハハ」

「笑い事じゃないっつーの!」



バカッ!って叫んで顔を背けてやった。だから透がどんな顔をしていたかは分からない。
そして気付かなかった。
透が一瞬だけ寂しそうな顔をしていた事に。


「……美希」

「なに?」

「オレ、結構美希に対してキツく言ったんだけど、別にこの世界の事を嫌いになって欲しいと思って言った訳じゃない」

「うん…、大丈夫。そんくらい分かってる。確かにこの世界は私の居た世界よりも物騒で怖いけどさ…、嫌いじゃないよ」

「そっか…」

「寧ろ感謝してる」

「感謝?」

「うん。こっちに来て、少しだけ成長できた気がするからさ…」

「……オレさ」



ありがとう、その言葉を伝える前に、私の視界に居た透が消えた。その後直ぐに感じた温もり。

透に抱き締められてる…。そう気付いた時には、既に透が話し始めていた。



「オレはずっとこの世界で忍として生きてきて、何でオレはまだ生きてるんだろうって思うことが何度かあった。親も仲間を救ってやれず殺してしまったも同然のオレが」

「……」

「でもオレにはこの道しかないからね、勝手に死ぬわけにはいかない。長老や村の奴らを守らないといけないんだ。それが嫌だと言っている訳じゃない。忍であることに誇りだって持ってる。
でも、任務の度に感情を押し殺していくうちに、自分が人としての何かを失いそうで怖くなるんだ。ま、今のオレが言えることじゃないけど」

「とおる…」

「そんなとき、美希が現れた」



「お前のおかげで救われた…」
どういうこと?って聞いたら、ただ笑うだけで何も答えてくれなかった。
いつもより全然近い透は、それでもやっぱり何を考えているか分からなくて。
ありがとう、って透は言った。



「な、なに急に? 透らしくないじゃん、気持ち悪い…」

「ハハ、美希ちゃん酷いねー」

「アンタが変なこと言うからでしょ!」

「そんな変なこと言ったっけ?でも、ま…」

――ギュッ

「…!」

「……。



ありがとう…」



そして言ったんだ。

「帰る方法が見つかった」って…。







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