ワンコと私






次の瞬間、空気が変わった。



「伏せろ!」

「わっ…!」



急に何かが飛んできて、それから守るように私を腕の中に閉じ込めて、その何かから庇った透。

咄嗟に瞑った目を開けると、此処に来て初めて透に突き立てられた物と同じものが、直ぐ横の地面に刺さっていた。思わず息が止まる。



「ったく…。美希、しっかり掴まってろ」

「へ?…わっ!」



軽く舌打ちを溢した透に抱き上げられ、そのままあり得ないぐらいのスピードで移動する。ヤベー、舌噛みそう。

落とされないように必死にしがみついて、怖くて仕方なかったから目を瞑った。

着いた場所は長老の爺さんの部屋だったようで、私を下ろすと透はまた直ぐに消えた。

一体何がどうなってるんだ?さっきの嫌な空気は何?



「ちょっ、爺さん!一体どうなってんの!」

「まぁ落ち着け、美希。透も直ぐに戻ってくるじゃろうて」

「い、いやでも危ないって!なんか刃物みたいなの飛んできた、し……」



そこでハッとする。

そうだ、此処は自分の住む世界とは違った。ここで私が騒ぎ立てたところで何も変わらない。



「……」

「…美希よ」

「な、に…?」

「怖いか?」

「…!」



怖い?当たり前だ。

一歩間違えれば、自分はあの刃物で死んでいたかもしれない。透が助けてくれなかったら多分…。

でも透は、目を見開くことしか出来なかった私と違って冷静だった。あれが「忍」という世界なんだろうか。

足がガクガクと震える。



「先程の奇襲は恐らく美希、お主を狙っての事じゃろう」

「…!私?」

「お主の事が何らかの形で漏れた可能性がある。帰るまでの間、もしかしたらこのような事がまた起こるかもしれん」

「そ、んな…!」

「お主が不安に思うのは分かる。しかし、この世界の人間ではない者をこの村に置いた時点で、予想はついておった」



そして爺さんは言った。「此れが此方の世界じゃ」と。
鳥肌が立った。自分の世界ではこんなことはまずあり得ない。

透の言っていた「殺らなきゃ殺られる」とは正にこの事…。



「う…っ…」


「……」

「ふ、ぅ…っ」

「…美希」

「…っ…」

「美希、お主の生きる世界は此処ではない。向こうで何があったのかは敢えて聞かん。じゃがもう一度よく考えてみるのじゃ」



恐怖、不安、安心…
色んな感情が混ざってた。

これからあと何回、命の危険を感じないとダメなのか。今自分が此処に立っていることは、現実なのか。

何よりも、やっぱり自分は甘かった。一瞬でも自分の世界に帰るよりは…、と考えてしまった自分は何て浅はかだったんだろう。

帰りたい、帰りたい。元の世界に。



「心配するでない、美希。必ずお主を元の世界に戻すと、約束したであろう」

「…っ…」

「それにお主には傷一つさせぬ。だから泣き止むのじゃ。ほれ、透も戻ってきたぞ」


「風見透、只今戻りま…って、うわっ?!」

――ドンッ!!

「…っ…。




とお、るっ…!」

「…美希」



爺さんの言葉と傷一つない透に、安心してまた涙が出た。






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