「だーかーらー!知らないって言ってんの!
私だってアンタみたいな性悪ヤローの上に好きで落ちた訳じゃないし」
「ほんっと可愛くないね」
「まぁまぁ2人とも落ち着けって」
「でも柚木さん、コイツったらさっきからグチグチグチグチ…」
頭の痛みが薄らいだ頃、無理やり連れていかれた部屋は、強面の爺さんのいる部屋だった。
目付きは悪く(人の事は言えないが)、どう見てもヤーさんのボスにしか見えない爺さんに敬意をはらいながら状況を説明し出した"風見透(かざみとおる)"という男。
そしてしばらくして、「柚木」と呼ばれる男も部屋にやってきた。
その男は来るや否や爺さんと二言三言言葉を交わし、そして私をみて「あぁ、彼女が例の」とどこか懐かしそうな表情をした。
訳が分からず一体何なんだコイツらは、と若干引いたがそれを顔に出さなかった私はエライ。
話が進んでいく内に、私が此方の世界の人間ではないという結果に無理矢理落ち着かされてしまった。
いやいやいやなんじゃそりゃ、と突っ込みを入れるのは私の心の声。
と、まぁ黙って3人の会話を聞いていた訳なんだけど、何故私が風見透の上に落ちてきたのか質問された事で、話は冒頭に戻る。
「『グチグチグチグチ』? んなのグチグチも言いたくなるだろ! しかも自分から聞いといて何だよそれ?! ふざけんのも大概にしろよ?」
「別にふざけてなんか無いんだけど?」
「あぁ?!」
「これこれ、二人とも落ち着くんじゃ。あー、美希と言ったか?」
「…そうだけど?」
「さっきは透の奴が手荒な真似をしてすまなかったの。ワシに免じて許してやっておくれ」
「……ふん、別に良いよ。そんなに気にしてないし」
そう言いながらチラッと横目で風見透の姿を確認すると、面白くなさそうにそっぽを向いていた。うわ、ガキ…
「で、本題に戻るんじゃが…。ワシはお前が別の世界から来たという話を信じたいと思う…」
「え!」
「ちょ、長老…! こんな見るからに怪しくて頭の悪そうな奴を信じるんですか!」
「頭悪そうは余計だタコ!」
「まぁまぁ、落ち着きなって美希ちゃん。透も女の子相手に喧嘩売るんじゃない。長老が信じるって言うんだから良いだろ」
「ちょ、柚木さんまで!」
爺さんと柚木の態度に明らかに不満をぶつける風見透にしらーっとした視線を送る。
別に良いじゃん信じるっていってんだからさ。私も異世界がとうとかはよく分からんが、なんか深く考えるのも面倒くさい。
「なんで長老と柚木さんはそんなに落ち着いているんですか!」
「前例があるんだよ」
「前例?」
「あぁ。そこの美希ちゃんと同じように突然この世界にやってきて突然帰った子が過去に1人居たんだ」
「俺が対応したから間違いない。だから今回の件もそう考えて問題ないだろう」と続ける柚木。
「へぇ、じゃあ帰れるんじゃん、私」
「はは、だと良いんだけど…」
「は?」
「なんせその時は突然来て突然帰ったもんだからさ、何がきっかけで行き来できるのか、そこは俺も分からないんだ」
「え、じゃあそれって帰れないってことですか」そう尋ねれば「現時点では何とも言えない」答える。
おいおいまじかよ。そこは流石にスルー出来ねぇよ。
「いきなり異世界だのどうとか言われてこっちはパニクッてんのに、更に変える方法が分からないだぁ? んだよ、それ納得いかねぇんだけど!」
前来たとかいう女も女だよ。
こんな時のために何かしらの「こうやったら帰れるよ。テヘッ」的な置手紙を残しておけよ。
超困るじゃん。
「まぁ突然の事で動揺するのは無理もない事じゃ。ワシらとて以前にやって来た雫というおなごの存在がなければ、お主の存在は今頃大混乱を招いておったかもしれん」
「……」
「直ぐに理解しろとは言わぬ。しばらくはこの村でゆっくりと過ごすがよい」
「長老の言う通りだ美希ちゃん。俺たちも君が元の世界に帰れるよう出来るだけ手を尽くす」
「はぁ……」
「護衛に透の奴を付けるから」そう言って微笑んだ柚木に静かにため息をついた。
駄目だこいつら、話がまったく通じん。
でもなんか話がまとまりかけてるし、頭痛くてこれ以上わーわー当たり散らす元気もなかったから、ここは大人しく首を縦に振っておいた。
一体どうなるんだか……。もうしらね。
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