「あのさ……」
「…!!」
「いつまでも黙ってないで、いい加減喋れよ」
いつまでも口を開かない事にかそれともいつまでも睨み続けている事にか…。
いずれにせよ痺れを切らしたのか、この柚木とという男は私の首を掴んできた。
感情を押し殺し、まるで人形かのように思わせるこの男がキレたことには驚いたが、
だけど目を見れば分かる。
何も変わっていない、虫ずが走るような目。
「……っ…、フッ…」
「……何が可笑しい」
「自分を見失ってる奴に、何を言えば良いんだ?」
自分を見失っている奴には何を言っても意味がない。
人形の同然奴なんかに…。
そんなコイツが初めて生きた目を見せた時には、私は顔を殴られていた。
口に広がる血特有の味。
思わずフッと笑みが溢れた。
「……良いよ」
教えてやるよ、何もかも。
お前の目に“生”が一瞬でも見られたから…。
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「なんと…、それは誠かの…?」
柚木に呼ばれてきた、あの時の爺さん。
それと柚木に今自分が思っていることを伝えた。
「自分は異世界から来たものだ…」と。
思った通り、2人は信じられないという顔をしていた。
当たり前だな。
私だって信じられないんだから…。
「嘘をつくんならもっとマシな嘘を言いな…」
「こんな嘘だと分かる嘘を誰がつくと思う?」
柚木がそう言うのも分かる。
だけど何一つ嘘をついていない。
私だってこんなことは、出来れば信じたくないんだ…。
理由はなんであれ、何人もの人を殺す奴らがいるこんな残酷な世界に来てしまったなんて。
どうせこの話が終われば、私を殺すんだろう?
なんて、柚木と爺さんが話しているのをぼんやりと眺めていた。
「俺は……彼女の話を信じます」
「!!」
「ほぅ…」
「お前はこの話をどう思う?」
爺さんにそう聞かれた柚木から出た言葉は、思ってもみなかった言葉だった。
柚木はその根拠を説明しているが、そんなことは耳に入って来なかった。
何故…?
柚木は私を信じられる?
自分すら信じられない話に…。
なぜ柚木はこんな得たいも知れない奴を信じれるんだ?
この爺さんもそうだ。
「柚木の言うことなら間違いないじゃろう…」そう言って私の話を信じた。
しかも終いには「安心してこの村に居ろ」だなんて…。
予想外の事に、拍子抜けしてしまう。
「なんで…」
「?」
「…殺さないのか?」
最初は血も涙も無い奴等なんだと思っていた。
あの時なんか、誰一人として返り血を浴びてない奴なんか居なかった。
平気で人を殺す事が出来る奴等だと……
思っていたのに。
「言っとくけど、君が思っているほど俺たちは残酷じゃない…」
「………」
「だから安心しな…」
コイツも言った。“安心して良い”と。
そうだな…、もしかしたら柚木の言うように、そこまで残酷な奴等なんじゃ無いかもしれない。
コイツらは私を信じると言った。
ホントかウソか確認できないような話を。
だったら私も信じてみようか。
安心して良い、と言ったちょっと変わったコイツらを……。
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