「…はっ?」




意味が分からない。

あれ?

というかこれは逃げられたことになるのだろうか。


いや、でも腕はしっかり掴んでいたんだから逃げられない筈だ。


訳が分からず頭の上に疑問符を浮かべる俺。


とりあえず部屋に戻ろうとした俺に、1つの気配。

何か悪い予感がする…。




――ガチャッ

「あ、おかえりー!」




ドッと疲れが一気に来た。

まさかとは思ったけど、何故アンタがここにいるんだ…。

というか正座してお茶啜ってるし。


その座布団どっから持ってきたんだ…。




「何してんですか…」

「ん? お茶飲んでるんだけど?」

「いや、それは分かってるんだけど…」




いや、そうじゃなくて俺が言いたいのはなんでアンタが此処に戻ってきてるのかってこと。

急に姿消したと思ったら、俺の部屋に戻って茶飲んでるし…。

逃げられてないのには安心したけど、どう考えたっておかしい。

やっぱりこの人は相当キてるみたいだ。




「ハァ…、とりあえずさっさと来て」

「どこに?」

「アンタを警察に付き出すんです」

「あー、それで急に引っ張り出したんだ。言っとくけどそれは無理だよー」

「なんで…?」

「私、一樹君の部屋から出られないもん」

「はっ…?」




ついにはバリボリと煎餅を食べながら、淡々と言ってのける彼女。

もう突っ込むのは止めておこう。


ハァ…、ため息を付きながらガシガシと頭を掻く俺を見ながらフッと笑った彼女は……




飛んだ。


お茶と煎餅を持ったまま。




「服だって変えられるの」

「っ!」

「姿だって消せる」

「っ!!」

「しようと思えば何でも出来るわ。ただし、この部屋でだけね」

「……」




「どう?」
と誇らしげに言って見せる彼女に驚かされたのは素直に認めよう。

アンタが座敷わらしってのも辛うじて信じてあげよう。

というか何だ、その「俺の部屋限定」って。


何かそれ…




「気持ち悪…」

「そう? 私としては君達人間のほうが、よっぽど気持ち悪いと思うけど」




あ、いやまぁその能力も気持ち悪いっちゃ悪いんだけれども…。

俺的には自分の部屋に居られるのが気持ち悪い。

自分のテリトリーで、こんな風にお茶啜って煎餅食べられてるのなんか。





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