「--ハァハァ…」



どこだ、ここは?


見たこともない森の中、私は必死に猛獣から逃げていた。

逃げても逃げてもしつこく追ってくるのは、きっと私の体が木の枝や刺のせいで怪我をしているから。


恐らく、私の血の匂いのせいであの猛獣も興奮しているんだろう。

私の血を味わいたくてうずうずしているらしい。



「…っ…!」




暗いせいで足元がよく見えなくて、石につまずいた。

逃げようとしても上手く足が動かない。


悔しいけど……怖くて仕方がなかった。


こんな何処かも知らないところで、自分以外の奴に殺されるのなんか絶対に嫌だというのに…。




「あ゛ぁっ……ぅぅ!!」




だけど諦めてなんかやらない。

例え今噛みつかれている左足が無くなったって。

喉元を噛み切られたって…。



最後の息が途絶えるまで、私は絶対に諦めない…。




すぐ手元にあった枝を、すぐ近くにある猛獣の目に突き刺して…。




「ギィヤアァァァァ…!」




恐ろしい悲鳴と共に、苦しそうにもがいている隙に動かない体を動かそうと力を込めた。


絶対に生きるんだ…。

そう自分に言い聞かせて。




「…待て」




やっと逃げれた…、そう思っていたのに、今度は変な面を被った奴ら3人に囲まれた。


キッ、と睨んでみても顔が見えないから全く効果がないように見える。




「何者だ…」

「…くっ、…離せよ!!」




何者だ…、なんて。
お前らこそなんだ。


こんな返り血びっしりの服を着て、一体何人の人を殺したんだ?


私も殺すつもりなのか?



お前らは同じ人間なのに、血も涙もない奴らなのか…?


掴まれた腕を必死に振りほどこうとしてみても、

何故か上手く力が入らない。




「どこの村の忍だ?」

「奇妙な格好をしているな…」

「一回、長老の所へ連れていくか」




それぞれ3人が訳のわからないことを口々に話すなかで、いつの間にやって来たのか私をジーッと観察しているように見えるまたしても変な面をしている奴がいる。

体の大きさからして私と同じぐらいの年齢だろうか。




「…………」

「…っ……ただでやられると思うなよ…!」




精一杯の抵抗だった。

私を連れていこうとするコイツらへの。


だから捕らえるでもなく、かといって助けるでもなく私を観察し続けるそいつ目掛けて思いっきり蹴りをいれた。


足は既に感覚すらない。だけども傷は相当深いはずだ。

その証拠に面を弾かれたそいつの顔に、私の血がついている。

服に付いている返り血の真っ黒な色ではなく、鮮やかな赤色。




まだ私は生きている。

だからお前らにも殺されてたまるか…。



精一杯睨んで、意志を強く持って。




「うっ…」

「!……毒か」

「チッ、早く連れていくぞ」




だけれど、私の意志とは反対に重くなっていく体。

暗くなっていく視界。


それでも死ぬものか…と、意識が遠退くなかで必死に唇を噛み締めた。






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____






「ん……」

「気がついたかの…?」




目を開ければ白い天井が視界に広がって、布団に横にされていた。

声のする方を見れば、少し強面の爺さんが。




「具合はどんな感じじゃ?」

「……」




だけど見た目と違って、悪い奴では無さそうだ。

少し周りを見渡して。

どうやらここは大きな日本家屋らしい。
中庭も綺麗に手入れされている。

とそこには、
外の景色が見える窓に顔を向ければ、見たこともない風景。


信じられなくて…、
「ここは何処だ?」

そう尋ねようとしたとき、視界に入ってきたのはあの時私が面を飛ばした男。




あの目だ…。


何もかもを諦めてしまった、

まさに絶望と呼ぶに相応しいあの目。





イライラする…、この目に。


だから睨んでやった。


だから口を開いてやらなかった。



コイツの仲間だと分かったから…。