「なんと…、それは誠か…?」
長老を呼びに行って、漸く口を開くようになったこの雫(しずく)という女の放った言葉は、衝撃的なものだった。
自分はこの世界の者ではなく、異世界から来たものだと…。
普通に考えて、そんなこと有るわけがない。
「嘘をつくんならもっとマシな嘘を良いな…」
「こんな嘘だと分かる嘘を誰がつくと思う?」
「私だってこんなことは、出来れば信じたくない…」
と、一瞬だけ視線を落とした。
まだ彼女と過ごした期間は短いが、強い意志をもっていることは確かだ。
だから、雫が嘘を付いていないことは分かった。
チラッと、横にいる長老の様子をうかがうと「う~む…」と難しい顔をしている。
「柚木(ゆき)よ…」
「はい…」
「お主はどう思う?」
恐らく雫の話の事だろう。
信じられないような話にさすがの長老も驚きが隠せないようだ。
俺だって、全部が全部信じた訳ではない。
彼女の事だってまだ警戒している。
でも彼女が俺たちに差し出した「お札」と「携帯電話」というものを見る限り、信じざるをえないとしか言いようがなかった。
雫の世界には、俺たち「忍者」という存在はとうに廃れてしまっており、想像もつかない高い技術があるそうで。
雫の言葉には俺たちが聞いたことのない、単語が数多くあふれていた。
「俺は………彼女の話を信じます」
「!!」
「ほぅ…」
自分でも驚いた。
まさかあっさりと肯定してしまう自分がいることに。
「こんな服装は見たことはないですし、第一彼女が現れた森は俺たち忍の中でも特に暗殺部隊が警備しています。その警備を潜って森の中心部に侵入することなどまず出来るはずがありません」
俺は一体何を言っているんだろう。
分からない………。
勝手に言葉が出てくる。
それでも長老は、満足したように頷くと「柚木が言うなら間違いないじゃろう…」とニッコリ笑った。
そんなに簡単に村人以外の人間を信じていて良いのだろうか…
という疑問が飛ぶが、自分だって人の事は言えない。
軽くため息をつく俺に、軽く笑った長老は警戒をしている雫に口を開いた。
「雫…と言ったの?」
「………あぁ」
「お主が元の世界へ帰れるように出来るだけ協力はする。安心してこの村にいるが良い」
「え…」
驚いて目を見開いた雫。
なんだ?
殺されるとでも思っていたのか?
「なんで…」
「?」
「…殺さないのか?」
「はっ?」
「アンタら……人を殺すんだろ?」
そう言った彼女は、捕まった時の事を考えているのだろうか。
辺りが血に染まっていたあの場所。
俺も、彼女に会う前に何人もの人を殺めていた。
それで思ったのだろう。
俺達が人を簡単に殺める血も涙もない奴らだと。
自分も殺されるんだと…。
「言っとくけど、君が思っているほど俺たちは残酷じゃない…」
「………」
「だから安心しな…」
安心しろ…だなんて。
本当に自分はどうしてしまったんだろう…。
ただ、彼女には不安そうな顔をして欲しくなかった。
あの真っ直ぐとした、強い眼差しを見せる彼女の方が似合っている…と。
そう思った自分がいた。
.

