「元ーー!」



来た……。

さぁ、今日は何をし……




――ドゴッ!!




「う゛……」




何でお前は……




「……いきなり殴る…」

「元!」



……このアマ。

はいはい、いつもの事だよ。

お前が人の話を聞かずに暴走するのなんか…。


「なんで?」と聞こうとした俺が馬鹿だった。




「私は3の3乗、2の2乗です……///」




はっ?




「「………」」




はっ?




「いや、何それ……」

「そ、そういうことで!」

「だからちょっと待っ……」



………。

ハァ…。
いつもの如く意味不明な事をやるだけやって去って行きましたか。


というか、さっきのアレはほんと何?
本当意味わかんない。

こわい、どうしよう怖いんだけど。


もう、あそこまで行くと逆に天才だと思う。

うん、彼女はある意味天才だ。




「3の3乗、2の2乗………か」



なんだ、その数式。
足し算でも引き算でもましてやかけ算でもなく、ただ数字が並んだもの。

一応紙に書いてみるも、よく分からない。




「かけ算ならえーと、27×4だから…108。足し算なら……」




まぁ、あいつの場合かけ算はないだろうな。馬鹿だから。

せいぜい足し算か引き算のレベルだろう。





「-―……。わかんね」




結局、午後の授業時間中いろいろと試してみたが、答えが分からず諦めることにした。

あいつのせいで、午後の内容すっからかんだよ。




「元ー、帰らねーのか?」

「俺ちょいやることあるから、先帰ってて」

「りょー」




野球部の掛け声が響くグラウンドを眺めながら、暗号の事を考える。

一つ気になるのは、何故あいつはこの暗号を伝える時に顔を紅く染めていたのか。

うーん……、と腕を組み考える。


もし、彼女がそれを伝える為に俺の所へ来たのなら、その意味を解かなきゃならないだろう。


だが普段の彼女があれだからなー。

今回の暗号の事もただの奇行とも考えられる。




「ほら! 渡してきなよ」

「う、うん…///」




ふと、下を見下ろせば1年生だろうか。
どこか初々しさが見える女子生徒2人が、グラウンドをチラチラ見ながら相談している様子が伺える。

一人の女子が持っているのは手紙。

恐らくその手紙の届け先は、その近くでアップをしている陸上部のゆうきだろう。

手紙を持っているその子は幾らか顔が紅い事から、手紙の内容は容易に想像できた。

 


「あいつもいろいろと大変だな」




「ま、がんばれよ」と心の中でエールを送りながら思い出すのは、昼休みのひかるの表情、そして暗号。




「……え?」




急いでノートとペンを取り出し、ある50文字を書き出していく。

そういや最近女子の中で流行ってた、手紙交換。

それらは、内容が見られても直ぐにバレないように、ちょっとした小細工をするんだと、この間晴の奴に聞いた。



「まじ…かよ」




思わず顔を覆ってその場に座り込む。

やべ、俺かなり動揺してる…。


普段のあいつからじゃ考えられない「ソレ」。

俺自身もそんな風には考えてなかったから、本当に驚いた。

恐らく今の俺の顔は情けないほどに紅いはず。




「はぁ……、やってくれるじゃねぇかよ」




彼女の奇行の意味はすっかり分かった。

仕方がない、今度は俺から行動を起こしてやるか。


あいつの可愛い一面が見られそうだ…。





3と2の暗号(了)



(3の3乗、2の2乗=サ行の3、カ行の2)





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