六区をうろちょろしているとビルの看板に目的の文字を彼が見つけた。近くに2件あってどちらに入るかも問題になったが、それよりもお昼前後から開演しているという意外な事実に慌ててしまった。まだ心の準備が全くといっていいほど出来ていなかったからだ。いや本当は二人とも入る気なんて更々なかった。お互いにうまい言い訳を作るために早く出てきたにすぎなかったのだ。
 ストリップを見るために浅草に行ったけど、様々なトラブルがあって結局見ることが出来なかった。そういう言い訳のための9時到着だった。でもそれを僕も彼も口に出して確認したりはしなかった。このままでは逃げる口実を失ってしまう。困り果てていた僕に彼はストリップ劇場のさらに向こうを指刺してこう言った。
「あんなところに遊園地があるぞ」
 それは花やしきだった。あまり明るい時間に入ろうとすると僕らが中学生だとばれてしまうかもしれないからあそこで時間を潰すことにしようと彼が言い出した。僕がそれを断る理由は何一つなかった。
 花やしきを出ると僕らの財布の中身はほとんど残っていなかった。それも計画通りだった。それから出入り口の傍にあるお店でかき氷を食べた。彼の言い間違いを僕は訂正しなかった。頭の中はストリップ劇場の前で見た看板の写真でいっぱいだったからだ。
 そいつは高校3年の夏に死んでしまった。
 彼の知っているストリップは今僕の目の前にいる彼女のだけだった。