「…っ!!…ぐっ…いっ…」

ひたすら無限に続く真っ白な空間。その空間の主なら、空間を自在に操ることができる。まさしく空間の主であろう人物は、空間を操って出現させたベッドの上で、張り裂けるような痛みと戦っていた。

うつ伏せになり、シーツが依れるほどに握りしめ、爪と指の隙間からは血が滲んでいた。空間に負けないほどの真っ白な衣服もシーツも血で三分の二は赤く染まっていた。汗や涙で視界も霞み、ただ歯を軋り合わせて痛みに耐えていた。

「―っ、はーっ…はーっ…」

やがて、ベッドの上の女性は力無くベッドに埋もれた。息は荒く、何とか整えようとしている。女性の足元には、赤黒い物体が転がっていた。彼女は肉体の疲労でまともに動けない。掠れるような声で、ある男を呼んだ。

「ロ…ロベル…ト…」

名前を告げると、音無く現れたベッドの側に跪く男の姿。俯いたまま、次の言葉を待つ。

「あ…あの子を…」

「畏まりました」

女性が言い切る前に、承知と言葉を返す。片手で顔を覆った後、顔を上げるとそこにあったのは、女性の顔だった。先程と比べて、丸みを帯びた女性らしい体つきになっていた。

物音一つ立てずに赤黒い物体の近くに膝を折り、流れるように処理を行う。物体をぬるま湯につけ、タオルケットにくるむとロベルトと呼ばれた人物がタオルケットを女性の元へ運ぶ。ロベルトの腕の中には色白で陶器のように透き通った赤子が抱かれていた。

女性は恐る恐る赤子を受け取ると、愛しげに口付けをした。すると、赤子は泣き出した。呼吸を始めたのだ。女性の口の中には、血が合った。切れた血ではなく、赤子の口の中に入っていた血だった。それが呼吸を妨げていたと考えると、背筋が凍る思いだった。女性に出産経験はなく、生まれたばかりの赤子が泣かないことを疑問に思わなかった。ほんの少しでも血を出すのが遅れていたら、命を落とす可能性もあった。

「ああ…あなたに会えて嬉しいわ…とても…とても…」

少し力をいれたら壊れそうなほど柔らかい赤子を軽く抱き寄せると、ゆっくりと後ろへ倒れた。ロベルトは女性の肩を抱き止めて横にする。