そうこうしている内に、座敷に着いた。
「ははっ、いいじゃんそんな母親。俺にとったら羨ましいよ」
「風さんのお母さんは、どんな人なんですか?」
「……さあ?」
話の流れで聞いた質問。
風さんからの返答は、意味の分からないものだった。
「さあ?って、どういうこと……」
「だって俺、母親知らねぇもん」
「は……?」
風さんは笑いながら入り口に置いてあったほうきを手にする。
あたしは、そんな風さんを見つめていた。
あまりに自然と出た言葉。
母親を知らない……?
自然すぎて聞き流しそうになった、重い言葉だった。
「え、そうなんですか?」
「うん、病気で亡くなった。物心ついた時にはもう、父親と二人だった」
「へ、へえ……」
風さんには何ともないことなのだろう。
だから、普通の会話として話せるんだ。
だけど、ちょっと悪いことしてしまったかなと思ってしまう。
あたしだけが勝手に気にしてしまって、上手く返事が出来なかった。
こういう時、どうしたらいいか分かんないよ……
「そんな顔すんなって。俺は別に平気だし」
戸惑っているあたしを見た風さんは、あたしの頭をポンポンッと優しく叩いた。


