「やっばい!寝過ごしたっ!」


布団からはねおきて時計を見た千夏は愕然とする。


どうしよどうしよどうしよどうしよ。


時計は起きなければいけない時間を30分も上回った時間をさしている。


「千夏〜?起きてる〜?」


「今起きたっ!」


お母さんからの叫びに慌てて返事をしながら用意を済ませた。


慌ててリビングに降りた千夏は
お弁当をカバンに詰め込み
行ってきますもなしに玄関を出た。


「華夏〜ごめん〜(><)」


「千夏おっそーい!
走らなきゃ間に合わないよっ!」


「ほんっとごめん!行こ!」


「ほんとに千夏は中学になっても変わんないなぁ(笑)」



―夕暮 千夏― ゆうぐれちなつ



今日から中学生になる。


小学校の頃は明るかった髪を黒く染めて今から入学式に挑む。


小さめの背と幼い顔が可愛らしい印象を与えてるみたいだけどそれは間違い。


私の前で気を抜くと七色の毒舌が待ってる。


まぁこの見た目は悩みでもあるんだけどね。


小学校の頃はわりとやんちゃだったけど中学に入るのを気におしとやかを目指してる。


小学校は平凡にくらしてた。
勉強も運動も恋愛も人並みにはしてきた。



でも恋はよくわからなかった。



別にしなくてもいいものだというのが今の恋愛に対する気持ち。


そう思ってる。


いや、


そう思ってたはずだった。





君と出逢って私の運命が少しずつ動いていく。






「あ、千夏!
クラス表張り出されてるよ!」


「わ!ほんとだ!見に行こうよ!」


新しい学校♪新しいクラス♪
なんて充実してるんだろう。


でもただ一つ問題が…


「東丘の人結構少ないね。
良かったじゃん千夏!」


そう。東丘小学校。
わたし達の学校は南が丘小学校。


合併するんだ(号泣)


人見知りの私からすれば大迷惑…。


「上手くやってける気がしないよ私…。」


「何いってんの!
あ、私2組だよ!」


「私は…3組だ。」


「あちゃーまた離れちゃったか…。
あ!結菜ー!
じゃあまた帰りね千夏!


「うん!」


華夏は小学校の時から登下校が同じだった子。


クラス一回も同じになったことないんだよね〜。


年の割には背も高くて顔もオトナっぽい。


華夏の背中を見送ってからもう一度クラス表を見つめる。


「川月…川月…あったぁ!」


「なぁーにぃー?」


「うぎゃぁ!り、りっちゃん!」


「何よ。人をばけものみたいに。( `H´)」


「だって急に出てくるから…(((( ;°Д°))))」


「ちなが呼んだんじゃない。
あ、そうだ今年も同じクラスだったねちな!」


「うん!」


「ほら子犬みたいな顔してないで教室いくよー。」


「あ、待ってりっちゃん。」


もう一度クラス表を眺める。



―神空 飛向―



「か、み?かみそらとびこ?」


「何言ってんの。かみぞらひゅうが。
東丘の人だよ。」


「オトコノコ?」


「なんでカタコト(笑)
男の子だよー。」


「ふーん。変な名前。」


「あんたがゆうかぁ?
ほらもう行くよー。」


「あ、待ってりっちゃん!」


千夏はカバンを背負い直してりっちゃんのあとを追いかけた。


―川月 莉子― かわつきりこ


りっちゃんは小さい時から仲良しで一番の親友。


面倒を見てくれる優しいお姉ちゃん♪


りっちゃんも背が高くて大人っぽいから私はあんまり横に並ぶの好きじゃなかったりもして…。




―ガラっ―




りっちゃんからワンテンポ遅れて教室の後ろのドアを開ける。


その時対角線上の人物とふいに目が合った。





空いていた窓から冬の寒さを残した春風が千夏の髪を揺らした。






クリクリの大きな目に黒くなびいた前髪しゅっと通った鼻筋友達と楽しげに話していたようだった。


顔見たことないから東丘の人だな。


千夏は目が合ったことを無かった事にするかのように席についた。


神空飛向



どんな人だろう。



机に突っ伏していると突然頭をノックされた。


「もしもーし?起きてますー?」


聞きなれた声に顔を上げると


「りっちゃん!」


「なんか考え事?」


「あ、いや神空飛向ってどんな人かなって。」


「あぁあそこの」


「りこー!りーこー!」


「あ、ごめんちなまた後で!」


りっちゃんは友達に呼ばれて行ってしまった。


それとほぼ同時に不快に響くアナウンスが千夏達に体育館に移動しろとやたらと偉そうな命令を出してきた。


出席番号順に並んで体育館に向かう。


仲のいい先輩たちと挨拶を交わしながら自分の椅子に座った。


ながーいながーい校長の挨拶が終わって生徒ひとりひとりの名前が呼ばれていく。


「神空飛向。」


思わず反応して後ろにだれていた首がしゃきっとたてなおった。


「はい!」


すっかり声変わりした大人の声にも聞こえた。


でもまだ少し幼さを残した後ろ姿にも見えた。


長かった入学式を終えりっちゃんと列んで教室に帰った。


千夏が椅子に座ったのと同時に先生が話始めた。


「まずは自己紹介にするぞ!
俺の名前は

―日和純彦― ひよしあきひこ

26歳!
サッカー部の顧問だ!
残念だったな女子たち奥さんいるぞ!」


その瞬間教室からどっと笑い声が上がる。


変な先生。


「じゃあ一番のやつから!」




―ガタっ―




「神空飛向です!
東丘出身でサッカー部に入るつもりっす!
7月7日生まれでラーメンが好きです!
みんなよろしく!」


え?嘘でしょ?


その声の主は今朝も見た顔だった。


たったところを見ると意外と背は高くスラッと伸びた長い足。


クリクリの大きな目通った鼻筋真っ黒な髪。


その声は入学式でも聞いた声だった。



私は驚きのあまり頬杖をついていた肘を机から落としてしまいバランスを崩してしまった。



その拍子にロッカーに手をかけてしまい上においてあった数冊の本が音を立てて落下していった。


一気にみんなの視線を感じる。


うわっやっちゃったなこりゃ。


「お、どうした夕暮。
そんなに自己紹介したいか?(笑)
お前は最後だからないいぞ!やらせてやる!」


先生…(^ω^;)


先生の無邪気な笑顔が苦しかった。


「えっと夕暮千夏です。
あ、ヤンキーじゃないから(笑)
人見知りだけど仲良くして欲しいのでよろしく!」


自己紹介ほんとに嫌い。


千夏が一度微笑んで席に着こうとした時


「ちっちぇー何センチ?」


「あ、えっと150?くらいかな?」


「髪それ地毛?」


「んーん。染めたんだけど目立つよね(笑)」


と質問攻めに。


「ふははっ!はははっ!」


突然神空飛向が笑い出した。


大丈夫ですか。


「何よ突然。」


「いや、ちびでどんくせぇって幼稚園児(笑)」


「はぁ?初対面の人に向かって失礼じゃない?」


「初対面にはぁ?とか言うのもどうかと思うけど?(笑)」


なによこいつ。


やな奴やな奴やな奴やな奴やな奴やな奴。


「あんたが先に言ったんでしょ。」


「後とか先の問題かよ(笑)
まじつぼったわ(笑)
いいじゃんお前おもしれぇよ(笑)」


なに全然嬉しくないんですケド(╬^∀^)


「ま、まぁ喧嘩もほどほどにな?
じゃあ二番のやつ!」


先生が喧嘩の仲裁に入ってくれた。


千夏と神空飛向はもう一度目を合わせ舌を出してけなしあった。




また春風が二人の髪を揺らした。




「じゃー先生も早く帰りたいし今日はこれでおしまい!」


[うぉぉぉぉぉっー!!!]


教室から雄叫びがあがる。


「よし!解散!」


その聞き覚えのあるセリフと共に先生が教室からでていった。


千夏は頬杖をついたままポケットから携帯を取り出す。


溜まっている返信にうんざりしながら携帯を机に置く。


なんか結構つまんないもんだな。


私ってこんなにどらいだったっけ?


笑顔笑顔。


「ちなー?部活見学いくー?」


「んー。行かなーい。明日行くー。」


「そー?じゃあ先いくねー。
また夜ラインするからちな起きててね~」


「はいよーん。」


《ちな》


りっちゃんだけが呼ぶ私のあだ名。


「ちぃ!」


ちぃ?変わったあだ名だな。


「ちぃってば!千夏!」


「なに!」


突然呼ばれた名前に過剰反応する千夏。

顔を向けた目線の先には


「げっ!」


「なんだよその顔。」


なんだっけこの人の名前。

変わった名前だったような…。

神?か、か、か、


「飛向。」


「ん?」


名字忘れちゃったから飛向でいっか。


「なんか女の子に下の名前で呼ばれるの新鮮♪」


「そっか良かったね(^Д^)
じゃあ私行くねばいばーい!」


めんどくさいのきらーい。


「あ、待って!ちぃ!」


「ちぃ?」


「お前のことちぃって呼ぶ!」


「なんで?」


「川月がちなって呼ぶから対抗。」


「何よそれ(笑)」


「お前のこと気に入ったから。」


飛向の顔が真剣になった。


「好きにすれば。」


「やった!╰(*´︶`*)╯
なぁそれ誰の?」


「どれ?」


「そのゴールドの携帯。」


「あ、忘れてた。私の!」


「へっへーん(¬∀¬)」


「あ、ちょっ!返して!」


「だめ。」


「返して(`・Д・´)」


「じゃあライン交換して。」


「わかったわかったから!」


「へん♪」


千夏はめんどくさそうに飛向とアドレスを交換して逃げるように教室を後にした。


「なーんか中学デビュー失敗?」


帰り道首をうなだれさせて上を向く千夏。



―ザァっ―



「わわっ!」


突然風が吹きまだ残っていた落ち葉たちが地面から舞い上がる。


「すごい風…。」


前を見た千夏は呆然とする。


「ここ、どこ?」


上を向いて歩いていたため道を間違えてしまったのだろう。


「はぁ…。とりあえずまっすぐ行くか!」


千夏は風の吹き抜ける木のトンネルができた一本道を歩き続ける。


「おとぎ話みたいな道…♪」


まっすぐ行くと見慣れた道に出た。


「明日からはここ通っていこ╰(*´︶`*)╯」




「ちなー!」


「はーいー?」


「神空君が呼んでるよー!」


またあいつ!


体育館でバスケの練習をしていた千夏にひょっこり顔を出した莉子が話しかける。


もう五月。暖かい風が頬をなでる。


3組にはなれた。


ただ1人をのぞいては。


「ちぃ!またバスケしてる!」


「いいでしょ別に。」


「俺と職員室行く約束だったろ!」


「そんな約束してないよ!」


「何言ってんだよ先生に言われたのー!」


「もーわかったわかった。」


「俺もバスケ部入ろっかな。」


「は?なんで?騒がしくなるからやめて。」


「ひでぇなぁ。」


「それにもうサッカー部入ってるじゃん!」


「俺バスケの方が好き。」


「勝手にしなさい。」


あれから飛向とは兄弟みたいに。


一部を聞けば私が姉。


でも今だけ。


りっちゃんも最初そうだった。


これからどうなるのかな。


前を歩く飛向の背中を見て先の心配をする千夏。



そんな2人の頬を優しく風が撫でた。