息を吸い込む。
昔のことを忘れたりはしない。
私は昔の出来事を、私の頭の中に鮮明に残された記憶を語りだした。

普通の一軒家に住む普通の5人家族。
近所からも仲がいいと評判の花月家。
その花月家の次女が私。
その時の私は10才だった。

大好きな親に優しいお姉ちゃん、悪戯っ子の里玖に囲まれて過ごす毎日。
私は幸せだった。

その頃の私は、外見どおり活発で、元気で、よくクラスの委員長なんかもやってた。
2年前に仲良くなった優と、毎日のように遊んで、楽しい日々だった。

ある日、私が家に帰ると、いつもと様子がおかしかった。

「お母さん……?」
いつも、家に帰れば、夕飯の準備か、テレビを見ているお母さんが、なんだか慌しかった。
「あ、舛里っ!　お母さん、これから病院に行って来るんだけど、一人でも大丈夫?」
家の中を走り回って、判子やカードを探している。
明らかにいつもと違う光景に私は動揺した。
「病院……?　お母さんどこか、悪いの?」
「そういうのじゃないのよ。定期健診かな……?」

お母さんは噓をついた。
幼い私でも分かった。
お母さんは噓をつくときよく髪の毛を触る。