「隼人、あんた……その子」

これはあれか、彼女かとかそういう流れか。

普通に考えたらそうなるんだろうが、全然違うから出来れば言わないで欲しい。


が、母の思考回路は俺の予想の少しばかり斜め上を行った。


「このロリコンめ!!」


その言葉で、朱莉が盛大に吹き出した。

言っておくが、女子高生対象でロリコンと罵られるほど俺は年取ってないつもりだ。

「生徒だっ!! ……元」

勢いよく訂正してしまってから、もう朱莉の家庭教師じゃなくなったことを思い出した。


「クビになったっつー家庭教師? 手ぇ出したからか。出禁になったから今度は家に連れ込もうって腹だな!」

口の良く回るババアめ、と一瞬芽生えた殺意は、後ろに控えたままの朱莉の笑い声に相殺された。

なんでこんなに楽しそうなんだ、クソ。


「初めまして、瀬戸朱莉です。急にお邪魔してごめんなさい」

と、廊下からリビングの中へ進み出た彼女は、常識的な範囲の礼儀をもって挨拶をした。

例の仮面は、どうやら今のところ出てきていない。


当たり障りのない程度に朱莉を連れて戻ってきた経緯を話すと、じゃあ、と母は言った。

「一緒にピザ食べてけば? 1人で楽に贅沢しようと思ってたとこだけどこのタイミングで現れちゃったら仕方ない。特別にご馳走したるわ」


母さんがぴらぴらと振るピザのメニューを見て、ハンバーガーの時よりも朱莉の目が輝いたのを……見なかったことには、どうやら、出来ないようだ。