真夏の強烈な日差しや不快な湿度も少しずつ和らいできたこの頃、日陰を選んで歩けば吹き抜ける風は爽やかで、涼しいとすら感じるくらいだった。

野外スポーツ日和だ。


見上げれば空は高く、波打ったようなまだらなうろこ雲が秋の訪れを感じさせる。

あの雲、何かに似ている――と、不意に連想したのは波打ち際の砂浜だった。


先月の海岸バーベキュー。

あの日瀬戸朱莉は初めて日傘を手離して、裸足になって波と戯れていた。

クロップドパンツの裾を無理やり膝まで捲り上げて、それでも避けきれずにしぶきが服を濡らすとそれすら声をあげて笑っていた。

センセイ、と彼女が水をかけてきて、それを見て調子に乗った裕也たちの手で俺は海に落とされた。

また派手にしぶきが上がって朱莉の眼鏡まで濡らしたけれど、彼女は空を仰いで笑っていた。


いい笑顔、だった。

最後に見た、今にも泣き出しそうな、壊れそうな、縋りつき助けを求めたいのを必死で堪えるような顔を思い出す前に、強引に思考を戻す。


昼は何を食べるかな。

身体は甘いモノを欲しがっている気がするけど、男1人でワッフル専門店もないだろう。


例え知人に会う可能性が限りなく少ないと分かっていても人目を気にする小心者の自分を鼻で嗤って、やっぱりワッフルにするか、と思い直す。

食べたいものを食べて、何が悪い。


沈みかけた気持ちが、また少し上がった。

自制しなければ鼻歌でも飛び出しかねない気分だった。