――しまった、つい脳内呼称で呼び捨てに。

気付いた時には手遅れで、飛び出してしまった言葉は回収できない。

だが俺が朱莉の反応を確認する前に、

「うわ出た『俺のモノ』的発言! どうなのどうなの朱莉ちゃんッ!?」

……更なる爆弾が投下された。

勘弁してくれ、畜生。


気まずいのを押し隠して朱莉を窺うと、顔を隠す様に傾いた日傘が微かに震えている。

え? 何その反応、と傘の下から覗きこもうと屈んだ瞬間、

「――っ」

聞こえた、微かな、噛み殺したような笑い。


「……いいから、センセーもやってきなよ」

顔を上げた瀬戸朱莉は目尻に涙までためていて、ああ本当に楽しんでるんだと――今さらながら、さっきの言葉を納得した。


「……先に言っとくけど、俺そんな上手くないから」

なんでこんな保身を図ったのか、自分でも良く分からない。

ただ「笑うなよ」と念を押すと、彼女は「期待してないって」と追い払う様に手を払った。


しつこく絡もうとする裕也を引きずってコートに向かいながら、やはりさすがに朱莉を1人置いておけなくて、木嶋に頼んで彼女の元へ行かせる。


フットサルを始めた直後に木嶋の大きな笑い声が響き、午前中はどこか距離を置いているように見えたのに、この短時間で随分と打ち解けたもんだと――『友達なら好き』の意味に、少しだけ思いを馳せた。