【完結】セ・ン・セ・イ

「木嶋」

呼び止め、財布から千円札を2枚抜き取って押し付ける。

「なんか世話になりっぱなしだし、今日は奢る。彼の分も」

それから目をぱちくりする木嶋の返事を待たずに朱莉に振り返り、

「順に見てまわろう。全部回ってから決めればいいんだから」

声をかけると、心なしか彼女は安堵したように見えた。

じゃあ1階で食べてるからね、という木嶋の言葉を軽く受け流して、朱莉を引きつれて2階へ上がった。


「なんか、センセーより木嶋さんの方が先生っぽい」

2人になった途端、またしても失礼なことを言う。

人がさっきから気にしていることをずばっと。

「あいつは教師になるつもりないってのに、皮肉なもんだよな」

「あ、認めるんだ」

うるさい、と目線で睨みつけると、朱莉はくくっと肩を揺らして笑った。


「でもあの人、説明している時だけちょっと早口で怖い」


――怖い? 木嶋が?

そんな風に感じたことはない。

予想外の言葉に声を失っていると、

「なんか急かされてるみたいな……こっちの出方は待ってくれないような……有無を言わせないって言うか……」

抽象的だが、彼女なりの言葉で木嶋の印象を伝えようとしてきた。

「……苦手? 木嶋のこと」

「ううん、そうじゃない」

しっかりと首を横に振り、「多分、友達なら好き」と朱莉は言った。

『友達なら』という条件を付けた意味は、俺にはよく分からなかったけれど。