【完結】セ・ン・セ・イ

「大学生も色々大変ね」

「みんな好きでやってんだよ。嫌なら来なきゃいい。選択は自由だ」

ふうん、と気のない返事をした朱莉は、好き好んで休み中に大学へ行くなど信じられないとでも言いたそうだった。

学校は、彼女にとっては楽しい場所ではないんだろうか――と思わず邪推しまう、その反応。


ほどなく列の先頭になり、滑り込んだタクシーの後部座席に先に朱莉を押し込む。

後ろの真ん中は本当は狭くて嫌だけど、次に並んでいたのがやや太めでかなり汗をかいた男だったから、朱莉に真ん中を押し付けるのはちょっと可愛そうな気がした。

頭を下げて狭い車内に乗り込むとすぐに財布を探り、

「お前10円持ってる?」

「はぁ? たかる気?」

ご要望に応え先生モードを解除して『キミ』ではなく『お前』と呼んで発した問いかけは、無残に返り討ちにあった。

絶対コレがこいつの本性だ。


「違うわ阿呆。お前の分も出してやろうと思ってたけど、10円玉1枚しかない」

「うわ、意外と紳士。だけど貧乏」

そうだ、こいつ金持ちの娘だった。

10円がないんじゃない、10円玉がないんだ! と反論したいところだが、狭い車内に赤の他人と相乗りのこの状況で程度の低い口喧嘩はいい笑い者だ。

「奢ってもらう理由がない、と言いたいとこだけど……」

横からすっと10円玉が差し出される。

「私、100円玉がなかった」


貧乏と言ってしまった手前の照れ隠しなのか、不貞腐れたようにそれきりツンと窓の外を眺める瀬戸朱莉の様子に、俺は笑いを噛み殺した。