【完結】セ・ン・セ・イ

朱莉がこういう混り気のない素の笑顔を見せたのは、いつだったか。


――ああ、あの時だ。

初めて会った日、思わず漏らした『上流階級も色々大変だな』という本心を聞かれた時。

それと、朱莉が何だったかふざけてからかうようなことを言ってきた時に、思わず手が出て頭を小突いた時もか。

無防備にくしゃっと崩れたその表情を見て、何が嬉しいんだかと呆れた覚えがある。


俺が先生を気取らずに素に戻った瞬間を、朱莉は敏感にキャッチしていたわけだ。

参ったな、朱莉に対して偉そうに説教しようとしていた俺自身が、この様か。


オン・オフだなんて言って正当化しようとしたけど、もしかしたらこの子にとってもそうなのかも知れない。


学校での彼女。
家での彼女。
俺の前での彼女。

今日、木嶋や田澤少年といる時の彼女もまた、俺だけが知っている【いつも】とは少しだけ違う気がする。


――『先生が知っているのが本当の私かどうかなんて、誰が分かるの?』


どれが本当の瀬戸朱莉か、なんて。

きっとどれも本物で、彼女自身なんだ。

彼女の中には、学校モードの自分が、自宅モードの自分が、俺の生徒モードの自分が、きちんとオン・オフ付けられているのかも知れない。


俺が教師としての立場上朱莉の言うところの『猫被り』であったとするならば、そんなのは故意じゃないし猫でも演技でもなく、教師モードの俺だって俺自身に変わりない。

だからきっと、朱莉も……。